密やかに。
物音一つ立てないようにして。
あの人を見つめた。
思わず、喉が鳴る。
嬉しくて───
切なくて───
悲しくて───
その寝息に耳を澄ませる。
耳障りな虫の羽音をかき消して。
夜風の囁(ささや)きも。
街の雑音(ノイズ)も。
邪魔な全てをかき消した。
誰にも、邪魔なんかさせない。
今だけは。
この瞬間だけは。
私は、息を潜めて。
この欲望を殺して。
ただ闇に紛(まぎ)れる影のように。
ただ、見つめ続けた。
ここにこうしている事自体が、罪だと分かっていても。
どうしようもない。
どうしようもなかった。
愚かな自分が、可笑(おか)しくて────
この、つかの間の時間が、愉(たの)しくて────
ゆっくりと音を殺すように喉を鳴らせて、あの人の顔を眺(なが)めていた。
夜が綻(ほころ)び始める時刻まで。
ずっと、ずっと。
愛しいあの人の貌(カオ)を。
あの檻(オリ)の中に戻っても、いつでも思い出せるように。
脳が爛(ただ)れてしまうくらい、強く、強く、焼きつけた………………