遙か太古から、「彼等」は存在している。
普通のニンゲンとは異なるルーツから派生した、私達のような「能力者」が存在するように。
彼等――【悪魔】もまた存在している。
彼等は、世界を“侵蝕する”害虫。
そして、私達も同様の力を持った害虫。
だから、今日も殺し、明日も殺し、永遠に殺しあう。
ニンゲンの知らない場所で、知らない時に、世界にとっての害虫同士が殺しあう。
永遠にその事実を、彼等が知る事はない。
ケースRが施行されなくても、そのほとんどは彼等の理解できない世界で起きる事だから。
だが、私にとっての生きる目的は、彼等との闘争じゃない。
それはあくまでおまけだった。
私がしたいのは、もっと別の事。
ニンゲンらしい、もっと気持ちよい事だ………
―――六月二十八日 私立白嶺学園―――
「ねえ、上倉」
「何ですか? 会長」
生徒会長は忙しい。休み時間一つ、ムダにはできないくらいに多忙だ。
でも、わざわざ昼休みにここに来たのは、上倉からある情報を聞き出すのが目的だった。
「キミに聞きたい事があるんだけど。上倉って、彼と仲イイのよね?」
「彼?」
「時雨ソラ。キミとは古い友人なんでしょ?」
「ええ。いわゆる、幼なじみってヤツです」
「ふーん。そうなんだ」
「それが何か?」
「ううん。まあ、それはどうでもイイんだけど。ちょっとね」
「…………ところで会長。例の変質者の一件なんですけど、気になる情報が―――」
「ああ、それならもう解決したからいいの」
「解決?」
「そ。解決」
「……まさか、退治したとか言わないですよね? そういうのはつつしんでくださいって、前に言いませんでしたっけ? またヘンな噂が立ちますよ?」
「問題ないわ。“人知れず”ならイイんでしょ? とにかく、もうその変質者が出る事はないから」
「…例え相手が凶器を持った異常者でも、過剰暴力はこの国じゃ正当な防衛行為には当たらないんですけど。そんな事、当然わかっていますよね?」
「それは誰の“悪”かしら? 少なくとも、私の“悪”じゃないわね」
昨日の彼をまねるようにそう言うと、上倉はその元ネタの人物を連想したのか、苦笑を浮かべる。
「アクって………なんだか、僕の良く知ってる人物の物言いみたいに聞こえますけど」
「フフ。その誰かさんの受け売りよ。この世の概念は、全て“悪”。正義も善も全て悪。だから人はせめぎ合い、そしてひかれ合う―――らしいわよ」
「珍しいですね。貴女が、他人の言葉に感化されるなんて」
「私だって、自分が神様だと思ってるワケじゃないもの。素直に共感出来るものは、すんなり受け入れるわ。それに―――興味がある相手の言葉なら、なおさらでしょ?」
「え?」
「それでね、上倉。一つお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「無茶な要求でないなら」
「彼のアドレス、教えてくれない?」
「アドレス?」
「メールアドレスよ。時雨ソラのね―――」
極上のスマイルでそうお願いすると、上倉はこまったように苦笑した。
私達は、ニンゲンにあこがれる。
だから、きっと恋をしたくなったのだ。
その果てにあるものが、破滅だと分かっていても。
私は彼に恋する事を、選択してしまったのだ……………