「ただいま」
家に帰ると、珍しく出迎えがなかった。
そっと居間をのぞくと、そこには見知った二人の顔があった。
兄とその嫁は、何かを楽しげに話しながら、食事している最中だった。
そんな二人の顔を見て、私はそっと自分の部屋に戻った。
二人の姿を見て、確信した。
(……なんだ、そうか。ソラの言うとおりだ………つまりこれは、嫉妬なのか。嫉妬だったという事か……はははっ……)
理由が分かれば、もうそこに苛立ちはなかった。
馬鹿でうっとうしい兄を、あの女に取られたことに、私は内心いらだっていたらしい。
まるで、ニンゲンのようじゃないか。
(また、失ったのだな。私は………)
疲れた身体をベッドに横たえ、至福の微睡みへと落ちてゆく。
きっと、あの女は兄を幸せにするだろう。
私に残された時間よりも、あの女の時間の方が多い。
それに、あの女は兄にぞっこんなのだから。
ならば、私は私で好きにすればいいだけだ。
もう、自分の事だけを考えて―――
自分の欲望にだけ、忠実であれば、きっとイイのだ…………