―――ルールを破壊するモノを打倒できるのは、同じくルールの「外」にあるモノだけ。 だから、覚悟のある者は自ら進んで、「ツミビト」になる。
そうならなければ、何もできないから。
けれど、その「罪」の意味さえも、実の所、私達はよくわかっていないのかも知れない。
どこか他人を寄せつけない拒絶と、私の知らない場所を見てるような遠い眼差し。
真っ黒な夜空を見上げながら、煙草を吹かすその横顔を、私はしばらくながめていた。
そして、その一本を吸い終えて、吸い殻を自分の携帯灰皿にしまうところまで見届けると、彼のそばへと歩み寄った。
「ソラ」
「あっ………未空さん」
私に見つかった彼は、とてもばつの悪そうな顔をしていた。
その困った顔が、可愛らしい。
「…なにしてんですか? こんな時間に、こんな場所で。女の一人歩きはブッソウですよ?」
「その言葉、そのまま返すわ。こんな時間に、こんな場所で、一体何をしてたのかしら?」
「何にもしてませんよ。単なる散歩です。夜中にコンビニ行くの、好きなんですよ」
「こんなに遠くのコンビニまで?」
「――夜の顔したいつもの道を歩くのって、何か違った気分で気持ち良くありません? 時間が違うと、景色の色彩も違うし」
その言葉に、私は自然と微笑っていた。
彼も私と同じコトを考える。
それが、すごく嬉しかった。
「何かおごってくれたら、見なかったコトにしてあげるけど?」
「ひでぇ。教師のクセに生徒にたかるんですか?」
「今はプライベートの時間だもの。今は、ただのお隣のお姉さん。それに、ギブアンドテイクは世の中の常識よ?」
「……あんまし、高いモンでなければ」
「ありがと。ソラ」
あっさり折れた彼に、私はいつもより少しだけ近寄った。
あまりに澄んだ闇夜が気持ち良くて、自分で決めた彼との「境界線」を、今夜はほんの少しだけ、超えてもいい気がしていた。