「上倉」
「やあ。デートはどうだった?」
「…………言いたい事は、それだけ?」
「言ってる意味が分からないけど?」
人形共を破壊した後、私はその足で上倉桐人の所へ寄った。
のんきに授業の復習なんかをしていた上倉を、私は殴りたい衝動に駆られたが、ガマンした。
「あの悪趣味な人形、どういうつもり?」
「どういうも何も、忠告はしただろ? あれは出来損ないだって」
「…………何の話?」
「言っておくけど、こっちもリスクは背負ってるんだ。本家に見つかったら、タダじゃ済まないんだしね。もちろん、全部潰してきたんだろ?」
上倉と、会話がかみ合わない。
というより、何かがおかしかった。
「……何か、話ズレてない?」
「だから、君が試したいって言ったモドキ共の事だろ? ちゃんと言質は取ってあるから、言いがかりやクレームは受け付けないよ」
「…私が、言った?」
「そう。ソラが帰った後すぐにここに来て、半ば脅迫みたいに言っただろう? 気晴らししたいから、手持ちの“人形”全部出せって」
その言葉に、ようやくかみ合わなかった理由が分かった。
「………そう。会ったんだ。私に…」
もう、上倉に対する怒りなんて、どうでも良くなっていた。
私のデータを使った悪趣味な実験人形なんかよりも、もっと重要な問題が起きているのを知ってしまったから。
「おやすみなさい、上倉」
「七祇?」
上倉桐人の部屋を後にすると、私は伯母への報告もせず、まっすぐ帰宅した。
———もしも、本当に神サマが存在するなら、私は何を願うのだろう?
あの部屋へと向かう。
薄暗い廊下の突き当たりにある、扉の奥へと。
そこは牢獄。
まるで忌まわしきモノを閉じこめるために作られたかのような、堅固な座敷牢へと続く扉の前で、私は立ち止まって————
そして、ノックした。
「………お姉ちゃん。私」
返事はない。けれど、気配はあった。
「入るね」
扉を開けると、私は部屋の中に入った。
真っ暗な部屋の中。窓にはまった格子の模様の影が、畳の上に射していた。
部屋の真ん中に、人影が一つたたずんでいる。
私と同じ顔をした少女。
真っ赤な瞳が、私を見つめていた。
「お帰り、紅音ちゃん………」
私と同じ声で、彼女は優しく微笑んだ。
私と同じ、人形共の血の臭いをさせながら………………