———この世に、「代償」のない力なんてものはない。
他人にはない力があるというコトは、既に、何かをもう支払っているというコトなのだ。
幸せな時間は、あっという間にすぎるように出来ている。
久しぶりに、二人っきりでくーちゃんと話せた事で、私は少し浮かれていた。
そして、そういう時に限って、見たくもない顔に出逢ったりするものだ。
「紅音さん」
「………何の用ですか? 伯母さん」
夜も更けた頃、伯母がやって来た。
彼女がこの別邸に顔を見せる時は、決まって厄介事を持ちこんでくる時だけだ。
「一つ、お願いしたい事がありまして。今からよろしいですか?」
「夜遊びは好きじゃないんですけど?」
「それなら、別の人に頼みますけど、いいですか?」
伯母はにっこり笑いながら、そう脅迫した。
その「別の人」が誰なのか、私が理解してるのを知っていながら、ぬけぬけとそんな事を言う伯母に、私は軽い殺意を覚える。
本当に、イヤな女。
「………分かりました」
そうして、私は二日連続で「狩り」に出るハメになった………
標的はすぐに見つかった。
特徴も数も、伯母から聞いた通りのものだった。
私は先回りすると、人通りの絶えた裏道の真ん中で「ソレ」を待ち伏せる事にした。
そして、獲物が視界に入ったのを確認して、その前に音もなく降り立つ。
「はあ、うっとうしい………誰が、許可したの?」
手の中に落としたクナイが、うなりを上げて変形する。
あっという間に、それは二本の牙——大刀へと変化して、淫らな妖気に濡れた刃を闇の中にさらした。
魔を解体し、魔を断罪する、悪魔を殺すためだけに存在する兵装———【魔葬ナナギ】。
一族の中でも、これを常時携帯するのが許されているのは、私ともう一人だけ。
気に入らないのは、目の前の人形共の持っている武器も、私と同じ大刀だった事。
しかも、長さも重さも形状さえ酷似している。
一体、何の冗談だろう?
「———聞こえなかった? そこに存在して良いと、誰が許可したのって言ってるのよ。人形風情が、誰に向かってそんなもの向けてるのかって言ってるの」
人形は何も語らず、うつろな目のまま、剣を構えた。
私と全く同じ型。
足運び。手の動き。体裁き。
一気に激情が燃え上がった。
伯母が、私に依頼した理由を理解して、嗤いそうになる。
あろう事か、このニンゲンモドキ共は、私の動きを真似ている。
そういう悪趣味な作り方をされていた。
これを「作った」のが誰なのか、私は確信して————
体内の【炉】を全開にした。
哀れなヒトの成れの果て共を滅し尽くすのに、数秒とかからなかった。