―――自分の死に様を考える人間は、マイノリティなのだろうか?
けれど、「死ぬ」事を考えなければ、「生きる」事なんて出来はしない。
死が怖いから、人は進化する。
自分が永遠に失われるのは、誰だってイヤだから。
だから、考え、強くなる。
ブザマでも、愚かでも、あがいてみせる。
しかし、それでも死は訪れる。
それは、誰にも等しく訪れる事象だから。
どんな種類のニンゲンにも。ヒトじゃないモノにさえ、「死」は等しく訪れる。
死なないモノなんて、どこにもいない。
あの【悪魔】でさえ死ぬのだ。
死んで、ただのゴミになる。
それが証拠に、もう「ソレ」は動かない。
私が見付けて、私が徹底的に破壊して、私が微塵もなく侵し尽くした「ソレ」はもう――――
ただの、ゴミだ…………
「……ぺっ」
口に含んだ瞬間、あまりの不味さにその血を思わず吐き捨てた。
こんなにキレイな紅なのに、悪魔の血なんか口にするものじゃない。
例えるなら、絵の具と同じだ。
ただ見てくれだけの紅。ただの毒。それが悪魔の血。
私達以外の―――「ただの人間」が口にすれば、一瞬で絶命出来る。
冗談でなく、そういう「成分」だった。
手の中の大刀をひゅんと振るう。
地面に無数の赤い斑点が飛び散った。
それをながめながら、溜息が出る。
(…二本も必要なかった………)
手にした二本の刃―――【ナナギ】と呼ばれる【魔葬】を見やりながら、また溜息がこぼれる。
魔を殺す牙。
対【悪魔】用の特殊兵装。
少なくとも、私やあのコが使用する限り、これはとても強力な「牙」だった。
(やっぱり、一本で十分か………)
こんな駄犬相手なら、その方がきっと、もっとずっと愉しめた。
足下に転がるカタマリをうらめしくにらむ。
ついさっきまで、威勢と気勢と恐怖と傲慢をまき散らしていた化け物。
その断片が転がっている。
まるで、ゴミのように。
人のカタチに似ているしか能のない「ソレ」は、とんだデク人形だった。
この街の【悪魔】は、あまり出来が良くない。
私達の戦力もデータも知らずに、物見遊山のようにやって来て、こんな風に解体されるような無能ばかりだ。
何しに来るのかは知らない。けれど、定期的に彼等はやってくる。
まるで、この街で「何か」を探すかのように。
でも、それが何にせよ、きっと見付けられやしない。
こんなに弱いんじゃ、狩られるだけだ。
ここには、私よりももっと怖い人がいる。
「……………」
溜息がこぼれる。熱い、熱い吐息。
私はまだ気持ち良くなれてない。
けれど、コレはもう動かない。
もう二度と動かない。
もう、死んでしまった。
たったこれっぽっちの【侵蝕】と損傷だけで。
仮にも【悪魔】を名乗る存在―――戦慄の超越種であるハズのモノのクセに、こうもあっさりとブザマな屍をさらして。
少しは期待していたのに、とんだ結末だった。
「………つまらない」
全然食い足りなさそうな艶をしてる、冷たい刀身にまた溜息が落ちる。
こうして「外」に出るのは、簡単なコトじゃない。
家の者に気取られないように外出するのは、とても面倒なコトなのだ。
出る事自体は簡単だった。けど、悟らせないようにするのは難しい。
そんな苦労と努力とリスクを払って、せっかく出逢った獲物がコレじゃ、全然むくわれなかった。
「………………」
もっと、気持ち良くなりたい。
もっといっぱい殺し合って。
もっと淫らなくらいに血まみれになって。気持ち良く――――
血の海に倒れる私。
それを見下ろす私。
どっちが私で、どっちが私じゃないのか分からない。
そんな、万華鏡のような夢を良く見る。
私とあのコが混じってるみたいな感覚。
でも、今夜の狂宴はもうおしまいだ。
月の光に惑わされて、あのコにばったり出逢ってしまう前に帰る事にした。
私は本来、ココにいてはいけないモノだ。
私はただの、檻の花なのだから………