———人はみな汚い。
けれど、汚れを知らない無垢なんかに、価値なんてないのだ。
汚れて、ケガれて、それでも輝けるものだけがホントに価値のあるもの。
だからこそ、人間を「キレイ」だと感じる事ができる。
どうしようもなく汚れて、ケガレに満ちた存在だからこそ、人は美しいのだ。
「……あの、何でしょうか?」
「別に」
私の顔をじっと見ながら、くーちゃんはおかしそうに笑っていた。
何度か、部活の仲間と一緒に来た事のあるラーメン屋。
くーちゃんはこの店の常連らしく、瀬場君としょっちゅう来ているらしい。
あつあつのメンと格闘しながら、下品にならないように食べている私を見て、くーちゃんはどこか楽しげだった。
「……気になるんですけど?」
「ゴメンゴメン。同じモン食っても、食う人間次第でこうも印象変わるんだなって思ってさ」
「何の話?」
「この間、慎之輔と向日と一緒に来た時に、向日がそれと同じモン食ってたんだけど、アイツのはなんつーか、犬のエサみたいだったから」
「また、そんなひどいコト言って………アズミちゃんが聞いたら、怒るよ?」
「事実だし。あの暗黒胃袋娘も、お前の半分くらいカワイイ食い方で食うんなら、まだ可愛げもあるのにさ」
「そ、そんなにヘンな食べ方してるかな? 私……」
「話聞いてた? ヘンじゃなくて、カワイイっつったんだよ。美人って、何やってもキレイに見えるからトクだよな」
「えーと……ありがと」
「どういたしまして」
赤面しそうになりながら、私は食べる事に集中した。
こんなだから、いつまでたっても「進展」出来ないというのに。
でも、それでもイイと思っている私がいる。
本当は、ただのトモダチなんかじゃない「特別」になりたいクセに、そのリスクを怖がって、今の関係のままでも良いと思いこもうとしている私がいる。
本当に、臆病で卑怯。
「…時雨君って、上倉君のどこが好き?」
「唐突な質問だな。何かあったの? 桐人と」
「そういうんじゃないけど、ちょっと不思議に思ったから。だってさ、全然タイプ違うでしょ?」
「ま、そうだけど…………そうだな。多分———アイツがまともじゃないトコかな」
「まともじゃない?」
「ああ。桐人ってさ、見かけ通りに頭イイし、見かけと裏腹に運動神経バツグンだし、もてるし、人のあしらい方も上手くてさ。生徒会副会長ってのがぴったりなヤツだけど———そういうの全部、ポーズじゃん。ホントは、全然違うカオとかしてるんだけど、それは誰にも見せないっていうか、そういうトコが気に入ってる」
「………よく分かってるんだね。上倉君のコト」
「幼なじみだからな。でも、桐人だけじゃなくて、お前のコトも知ってるつもりだけど?」
「え?」
「お前が、見かけによらず大食いなトコとか、辛党でトマトマニアなトコとか、色々。多分、お前のクラスメイトも、部活のヤツラも知らないコトとか」
「トマトマニアって……確かに好きだけど…」
食べかけの真っ赤なトマトラーメンをかき混ぜながら、私はすねるみたいにふくれてみせた。